「投資は損をするかもしれない、貯金が一番安全」
「定期預金に入れておけば、老後のお金も安心」
このように考えている人は今でも少なくありません。
確かに、価格が日々上下する株式や投資信託に比べて、銀行預金は残高は減らない金融商品です。必要なときに引き出しやすく、生活費や緊急時のお金を置く場所としては欠かせません。
しかし、通帳に表示されている金額が減っていなくても、そのお金で買える商品やサービスの量が減ることがあります。それが、インフレによるお金の実質的な目減りです。
マネーフォレストでは、貯金について次のように考えます。
貯金そのものが危険なのではありません。
長期間使わないお金まで、金利分しか増えない預金に置き続けることが危険なのです。
この記事では、インフレによって預貯金の価値がどのように変わるのかを具体的に試算します。
そのうえで、貯金と投資を対立させるのではなく、お金の使用時期に応じて使い分ける方法を解説します。

結論|貯金は必要。ただし「貯金だけ」は長期的なリスクになる
最初に結論をまとめます。貯金には、次のような重要な役割があります。
- 毎月の生活費を支払う
- 病気や失業などの緊急事態に備える
- 数年以内に使う予定のお金を守る
- 投資資産を安い時期に売却しなくて済むようにする
したがって、預貯金をすべて投資へ回す必要はありません。
一方で、10年20年と使う予定のないお金まで預貯金だけで持っていると、物価の上昇により購買力が低下する可能性が高いです。
預貯金の問題は、通帳の数字が減ることではありません。
通帳の100万円は残っているのに、100万円で買えるものが少なくなる。
これがインフレの怖さです。
日本でも物価は実際に上昇している
総務省統計局が2026年7月24日に公表した2026年6月の消費者物価指数では、総合指数は前年同月比1.7%上昇しました。生鮮食品を除く総合指数も1.6%上昇しています。(総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数)
また、2020年を100とした総合指数は113.6です。指数上では、2020年の基準時点と比べ、平均的な商品・サービスの価格水準が13.6%高くなっていることを示します。

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」としています。毎年必ず2%ずつ上昇するという意味ではありませんが、長期の資産計画では「物価がほとんど変わらない」を前提にすることはかなり危険といえます。
マネーフォレスト流「3種類の安全性」
「預金は安全か」と聞かれたとき、答えが人によって異なるのは、安全という言葉が三つの意味で使われているからです。
マネーフォレストでは、お金の安全性を次の三つに分けます。
| 安全性 | 意味 | 預貯金の特徴 |
|---|---|---|
| 額面の安全性 | 表示されている金額が減りにくいか | 高い |
| 流動性の安全性 | 必要なときに使えるか | 普通預金は高い |
| 購買力の安全性 | 将来も同じ量の商品を買えるか | インフレ時には低下する |
預貯金は、額面と流動性を守ることには適しています。
しかし、購買力まで必ず守ってくれるわけではありません。
反対に、株式や投資信託には価格変動があり、額面の安全性は預金より低くなります。一方で、長期間で預金を上回る収益を得られる可能性があります。
金融庁も、預貯金、株式、債券、投資信託では安全性・収益性・流動性が異なり、三つの性質がすべて優れた金融商品はないため、目的に応じて使い分けることが重要だと説明しています。
つまり、預金と投資のどちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの弱点を補い合う必要があります。
通帳の100万円は、1年後にいくらの価値になる?
具体的な数字で考えてみましょう。
日本銀行の統計によると、2026年7月の普通預金の平均年利率は0.255%でした。1年もの定期預金については、預入額1,000万円以上の平均年利率が0.384%となっています。実際の金利は金融機関、預入額、キャンペーンなどによって異なります。(出典:日本銀行 預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(2026/7/26時点))
預貯金の利息には、原則として所得税・復興特別所得税15.315%と地方税5%、合計20.315%が差し引かれます。
ここでは、100万円を平均金利0.255%の普通預金に1年間置き、物価が1.7%上昇したと仮定します。
1年間の試算
預金額 1,000,000円
税引き前の利息 2,550円
税引き後の利息 約 2,032円
1年後の口座残高 1,002,032円
通帳の数字は、約2,032円増えています。
しかし、100万円で買えていた商品・サービスの価格が平均1.7%上昇すると、同じものを買うためには101万7,000円が必要です。
口座残高を現在の購買力に換算すると、次のようになります。
1,002,032円 ÷ 1.017 = 約985,282円
つまり、通帳の数字は増えていても、実質的な購買力は約1万4,700円減った計算です。
これは見えない赤字と言えます。
実際の物価と預金金利が今後も一定であるとは限りません。この試算は将来予測ではなく、金利が物価上昇率を下回る状態を理解するための一例に過ぎず、見えない赤字がもっと増えることもありえるでしょう。
100万円の購買力は長期間でどこまで減る?
次の表は、100万円を利息のつかない現金として保有し、物価が一定の割合で上昇し続けた場合の購買力を試算したものです。
| 年間の物価上昇率 | 10年後 | 20年後 | 30年後 |
|---|---|---|---|
| 1% | 約91万円 | 約82万円 | 約74万円 |
| 2% | 約82万円 | 約67万円 | 約55万円 |
| 3% | 約74万円 | 約55万円 | 約41万円 |
| 4% | 約68万円 | 約46万円 | 約31万円 |
たとえば、物価が年2%ずつ上昇した場合、30年後も通帳には100万円と表示されています。しかし、その100万円で買える商品やサービスの量は、現在の約55万円分に相当します。
インフレの影響が分かりにくいのは、一度に大きく減るのではなく、長い時間をかけて少しずつ進むからです。
預金金利が何%ならインフレに負けない?
預金金利と物価上昇率を単純に比べるだけでは不十分です。
預金の利息からは税金が差し引かれるため、物価上昇率と同じ金利でも、税引き後では購買力が下がる可能性があります。
預金だけで購買力を維持するために必要な税引き前金利は、おおよそ次の式で計算できます。
必要な税引き前金利
= 物価上昇率 ÷(1-利息にかかる税率)
税率を20.315%として計算すると、次のようになります。
| 物価上昇率 | 購買力を維持するために必要な税引き前金利 |
| 1.0% | 約1.25% |
| 1.7% | 約2.13% |
| 2.0% | 約2.51% |
| 3.0% | 約3.76% |
物価上昇率が2%なら、預金の税引き前金利が約2.51%なければ、税引き後の購買力を維持できない計算です。
預金を選ぶときは、単に「以前より金利が上がった」と考えるのではなく、
税引き後の金利は、物価上昇率を上回るのか
という視点で確認すると、実質的な価値を判断しやすくなります。
定期預金ならインフレ対策になる?
定期預金は普通預金より高い金利が設定されることがあり、元本を守りながら少しでも利息を増やしたい場合に役立ちます。
ただし、定期預金であれば自動的にインフレへ対抗できるわけではありません。定期預金の税引き後金利が物価上昇率を下回っていれば、実質的な購買力は低下します。
また、商品によっては満期前に解約すると、当初予定されていた金利より低い中途解約利率が適用されることがあります。
定期預金を利用する場合は、次の点を確認しましょう。
- 税引き後の利率
- 預入期間
- 中途解約時の条件
- 満期後の取扱い
- 数年以内に使う可能性
- 物価上昇率との差
金利だけを比較するのではなく、お金を使える時期も含めて選ぶことが大切です。
それでも貯金が必要な4つの理由
インフレに弱いからといって、預貯金をなくすべきではありません。
1.価格が下落しない
投資商品は、必要になった時期に価格が下がっている可能性があります。
日々の生活費や近いうちに使うお金は、価格変動のある商品よりも預貯金で保有するほうが適しています。
2.すぐに使える
普通預金は、日常の決済や急な支出に対応しやすいという大きな利点があります。
収益性だけでなく、必要なときに使えること自体に価値があります。
3.投資資産の安値売りを防げる
生活防衛資金があれば、失業や病気が起きたときに、値下がりしている投資商品を慌てて売らずに済みます。
預金は投資の反対ではなく、長期投資を続けるための土台でもあります。
4.一定額までは預金保険制度で保護される
利息のつく普通預金や定期預金などは、金融機関が破綻した場合、原則として一つの金融機関につき預金者1人当たり元本1,000万円までと、破綻日までの利息等が保護されます。
ただし、同じ金融機関に複数の口座がある場合は、口座ごとではなく合算して判定されます。預金額が大きい場合は、金融機関を分けることもリスク管理の一つです。
マネーフォレスト流「4つの財布」
貯金と投資の割合を、年齢だけで決めることはできません。同じ40歳でも、来年住宅を買う人と、10年間大きな支出の予定がない人では、必要な現金額が異なるからです。
マネーフォレストでは、お金を使う時期によって四つの財布に分けます。
| 財布 | 目的 | 使用時期 | 主な置き場所の考え方 |
|---|---|---|---|
| 暮らしの財布 | 毎月の生活費 | 今月~数か月 | 普通預金 |
| 守りの財布 | 病気・失業・故障への備え | 時期未定 | 普通預金など |
| 予定の財布 | 住宅、教育、自動車、旅行 | おおむね5年以内 | 預貯金や元本変動の小さい方法を検討 |
| 未来の財布 | 老後など長期の目的 | おおむね10年以上先 | 長期・積立・分散投資を検討 |
期間は絶対的な基準ではなく、整理するための目安です。
重要なのは、すべてのお金を一つの口座で管理しないことです。
暮らしの財布
毎月の家賃、食費、光熱費、クレジットカード代などを支払うためのお金です。
金利よりも使いやすさを優先します。
守りの財布
病気、失業、家電の故障など、時期を予測できない支出に備えます。
会社員なら生活費3~6か月分、自営業者や収入変動の大きい人は、より多めに確保することを検討します。
予定の財布
数年以内に使うことが決まっているお金です。
住宅の頭金、子どもの進学費用、自動車の買い替え費用などを、値動きの大きい投資へ回すと、使う直前に価格が下がる可能性があります。
未来の財布
10年以上使う予定のないお金です。
この部分まで預貯金だけに置くと、インフレによる購買力低下の影響を受けやすくなります。
リスクを取れる範囲で、複数の国や企業などへ分散された投資信託などを検討します。金融庁も、貯蓄と投資をライフプランに応じて使い分け、投資を行う場合は長期・分散・積立を活用する考え方を示しています。
ケーススタディ|1,200万円をすべて定期預金にしている家庭
ここではとある家庭を例にして考えてみましょう。
家庭の状況
- 夫婦ともに38歳
- 子ども1人
- 毎月の最低生活費:30万円
- 預貯金:1,200万円
- 投資資産:なし
- 3年後に自動車を買い替える予定
- 5年後から教育費が増える予定
- 住宅購入の予定はない
この家庭では、元本を減らしたくないという理由から、1,200万円のほぼすべてを定期預金に置いています。
しかし、1,200万円には異なる役割があります。
役割を分けてみる
| 目的 | 金額例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 日常の決済資金 | 60万円 | 生活費約2か月分 |
| 生活防衛資金 | 180万円 | 最低生活費約6か月分 |
| 自動車購入資金 | 250万円 | 3年後に使うため預貯金で確保 |
| 教育費の準備 | 210万円 | 使用時期が比較的近いため安全性を優先 |
| 長期資金 | 500万円 | 10年以上使わない部分として運用を検討 |
| 合計 | 1,200万円 | 目的別に管理 |
この例では、700万円は近い将来に使う可能性があるため、預貯金で保有する合理性があります。
残りの500万円は、すぐに全額投資する必要はありません。たとえば、毎月一定額ずつ、数年かけて分散された投資信託へ移す方法を検討できます。
NISA口座で購入した対象商品の利益や配当・分配金は非課税になりますが、NISAを使っても元本は保証されません。現在のNISAには年間投資枠と、合計1,800万円の非課税保有限度額があります。
このケースのポイントは、1,200万円のうち「何割を投資するべきか」ではありません。
いつ使うお金なのかを先に決め、使う時期に合う場所へ置く。
この順番が重要です。
マネーフォレスト流「インフレ耐性」10点診断
次の5項目を0~2点で採点してみましょう。
1.お金を使用時期別に分けていますか?
- すべて同じ口座に入れている:0点
- おおまかに分けている:1点
- 生活費・緊急資金・予定資金・長期資金に分けている:2点
2.生活防衛資金がありますか?
- 生活費1か月分未満:0点
- 生活費1~3か月分程度:1点
- 自分の働き方に合った金額を確保している:2点
3.10年以上使わないお金を把握していますか?
- 把握していない:0点
- おおよその金額は分かる:1点
- 金額と使用目的を明確にしている:2点
4.預金金利を税引き後で確認していますか?
- 確認していない:0点
- 表示金利だけ確認している:1点
- 税引き後金利と物価上昇率を比較している:2点
5.預貯金以外の資産を持っていますか?
- すべて預貯金:0点
- 一部保有しているが、目的は明確でない:1点
- 長期資金を複数の資産や地域へ分散している:2点
診断結果
| 合計点 | 現在の状態 |
|---|---|
| 0~3点 | 額面の安全性に偏っている可能性がある |
| 4~6点 | 現金の役割を整理し始める段階 |
| 7~8点 | 貯金と運用をおおむね使い分けられている |
| 9~10点 | インフレを含めた資産管理ができている |
点数が低いからといって、すぐに投資を始める必要はありません。
まずは、いつ使うお金なのかを整理することから始めましょう。
インフレ対策で避けたい5つの失敗
1.預貯金をすべて投資へ回す
インフレを恐れて現金を極端に減らすと、急な出費の際に投資商品を売却しなければならなくなります。
価格が下落している時期に売却すれば、インフレ以上の損失が発生する可能性があります。
2.高い利回りだけで商品を選ぶ
高い利回りには、価格変動、為替変動、信用リスク、途中解約の制限などが伴うことがあります。
「元本保証の預金と同じ感覚」で選ばないようにしましょう。
3.数年以内に使うお金を投資する
住宅購入、教育、自動車などに使う予定のお金は、増やすことより、必要な時期に使えることを優先します。
4.自分の物価上昇率を考えない
消費者物価指数は、平均的な家計の価格変動を示す指標です。
家賃の比率が高い人、食品を多く購入する家庭、自動車を頻繁に使う家庭では、実際に感じる物価上昇率が異なります。
前年と比べて、自分の生活費が何%増えたかを確認することも大切です。
5.一度決めた配分を放置する
収入、家族構成、物価、預金金利、投資資産の価格は変化します。
年に一度は、四つの財布の金額が現在の生活に合っているかを確認しましょう。
今日からできる5つのインフレ対策
インフレ対策は、預貯金を一度に投資へ移すことではありません。
まずは、次の順番で確認しましょう。
- 毎月の最低生活費を計算する
- 生活防衛資金を別口座へ分ける
- 5年以内に使う予定のお金を書き出す
- 10年以上使わないお金を確認する
- 長期資金について、預貯金以外の選択肢を少額から学ぶ
預金金利を比較することも有効ですが、0.1%高い銀行を探すだけで、長期的なインフレ問題がすべて解決するわけではありません。
金利と同時に、お金の目的と使用時期を考える必要があります。
まとめ|貯金をやめるのではなく、役割を限定する
預貯金は危険な金融商品ではありません。生活費、緊急資金、近い将来に使うお金を守るうえで、預貯金は欠かせない存在です。
しかし、預金金利が物価上昇率を下回る状態では、通帳の数字が増えても購買力は低下します。
大切なのは、
- 額面の安全性
- すぐ使える流動性
- 将来の購買力
という三つの安全性を区別することです。
私たちマネーフォレストは、貯金と投資を敵同士だとは考えていません。
現金は、森が枯れないように備えておく水です。一方、長期間使わないお金は、将来のために育てる木の種になります。
すべてを水として貯め込めば、木は育ちません。
すべてを種として植えてしまえば、今日使う水がなくなります。
必要な現金を守りながら、長期のお金には成長する機会を与える。それが、インフレの時代にお金の森を育てる基本戦略です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の預金、金融機関、投資商品を推奨するものではありません。預金金利、税制、NISA制度などは変更されることがあります。投資商品には元本割れの可能性があります。ご自身の資産状況、使用目的、リスク許容度を確認したうえで判断してください。