「普通預金には、いくら残しておけば安心なのだろう」
「生活費の6か月分が必要と聞くけれど、本当にそれで足りる?」
「貯金が多すぎると、投資の機会を逃してしまうのでは?」
資産形成を始めると、多くの人が現金と投資の配分に悩みます。
現金が少なすぎれば、病気や失業などが起きたときに生活を維持できません。一方、使う予定のないお金を長期間すべて普通預金に置いたままでは、インフレによって購買力が低下する可能性があります。
では、普通預金にはいくらあればよいのでしょうか?
結論からいうと、すべての人に共通する金額はありません。必要な現金額は、年収や年齢よりも、
- 毎月最低いくらあれば生活できるか
- 収入が止まったときに、ほかの収入が残るか
- 再び収入を得るまで何か月かかりそうか
- 数年以内に大きな支出があるか
- 家族、住宅、仕事にどのようなリスクがあるか
によって決まります。
マネーフォレストでは、現金の安心度を単なる預金残高ではなく「何か月生活を維持できるか」を軸に考えます。

結論|一般的な目安は3~6か月。ただし「最低生活費」で計算する
マネーフォレストが考える生活防衛資金の出発点は、次のとおりです。
| 家計の状態 | 生活防衛資金の出発点 |
|---|---|
| 収入が安定した会社員・扶養家族なし | 最低生活費の3~6か月分 |
| 共働きで収入源が分かれている | 収入減少後の赤字額の3~6か月分 |
| 片働き・子育て世帯・住宅ローンあり | 最低生活費の6~12か月分 |
| 歩合給など収入変動が大きい | 最低生活費の6~12か月分 |
| 自営業・フリーランス | 家計と事業固定費の9~18か月分 |
| 退職後に投資資産を取り崩している | 毎月の収支不足額の12~24か月分 |
これは公的な基準ではなく、私たちマネーフォレストが考える「家計の耐久力」として設定した目安です。
必要な現金は生活防衛資金だけではありません。日々の支払いに使うお金、近い将来に使う予定のお金も、投資とは分けて保有する必要があります。
平均貯金額を基準にしてはいけない
自分の現金額が十分かどうかを判断するとき、「同年代の平均貯金額」が気になる人もいるでしょう。
しかし、平均値を目標にしても、自分の家計に必要な現金額は分かりません。
政府の調査によると、2025年の二人以上世帯の消費支出は、1世帯当たり月平均31万4,001円でした(出典:総務省統計局 家計調査)。もっとも、調査対象にはさまざまな年代、所得、家族構成、住居形態の世帯が含まれています。
平均支出をそのまま6倍して、
31万4,001円 × 6か月 = 約188万円
と計算してもそれが自分に適した金額とは限りません。家賃が5万円の単身者と、住宅ローンや教育費を支払う4人家族では、必要額が大きく異なります。金融庁も、必要なお金の時期や金額は人によって異なるため、家計管理とライフプランニングを行い、貯蓄と投資を状況に応じて使い分けることが大切だと説明しています。見るべきなのは、他人の預金残高ではありません。
自分の家計が、収入なしで何か月耐えられるか。
この数字を確認することが重要です。
まずは「最低生活費」を計算する
生活防衛資金を計算するとき、普段の支出をそのまま使うと必要額が大きくなりすぎます。緊急事態が起きたときは、旅行、外食、趣味、積立投資などを一時的に減らせるからです。
そこで、通常生活費と最低生活費を分けます。
最低生活費に含めるもの
| 費目 | 最低生活費に含める内容 |
|---|---|
| 住居費 | 家賃、住宅ローン、管理費 |
| 食費 | 自炊を中心とした基本的な食費 |
| 水道光熱費 | 電気、ガス、水道 |
| 通信費 | 必要最低限のスマートフォン、インターネット |
| 交通費 | 通勤、通院、求職活動に必要な費用 |
| 保険料 | 必要な保障に関する保険料 |
| 税・社会保険 | 自分で支払う必要があるもの |
| 教育費 | すぐには停止できない学校関係費用 |
| 医療費 | 定期的な通院や薬代 |
| 借入返済 | 住宅ローンなど延期できない返済 |
一方で、次のような支出は、一時的に停止または削減できる可能性があります。
- 積立投資
- 旅行
- 高額な外食
- 趣味や娯楽
- 衣服や家具の買い替え
- 任意のサブスクリプション
- 追加の貯蓄
たとえば、普段の支出が月28万円でも、緊急時には月20万円まで下げられるなら、生活防衛資金は20万円を基準にします。
Money Forest式「現金持久月数」
預金残高だけでは、家計の安全度は判断できません。口座に300万円あっても、そのうち200万円を来年の住宅購入に使う予定なら、緊急時に自由に使える金額は100万円だからです。
そこでマネーフォレストでは、次の二つを計算します。
1.防衛に使える現金
防衛に使える現金
= 手元現金・普通預金
- 直近のクレジットカード請求
- 税金や社会保険料の準備金
- 5年以内に使う予定資金
「口座にあるお金」と「自由に使えるお金」を分けることがポイントです。
自営業者が納税のために保管しているお金や、子どもの進学費用として確保しているお金は、生活防衛資金には含めません。
2.緊急時の月間赤字
緊急時の月間赤字
= 最低生活費
- 緊急時にも確実に入る収入
緊急時にも確実に入る収入には、次のようなものがあります。
- 配偶者の継続的な手取り収入
- 確定している家賃収入
- 公的年金
- 条件を確認した公的給付
ただし、給付を受けられるか分からない段階では、全額を見込まないほうが安全です。
現金持久月数の計算式
現金持久月数
= 防衛に使える現金 ÷ 緊急時の月間赤字
たとえば、防衛に使える現金が120万円、緊急時の月間赤字が20万円なら、
120万円 ÷ 20万円 = 6か月
となります。つまり、収入が止まっても、約6か月間は現在の生活基盤を維持できる計算です。
現金持久月数の見方
| 現金持久月数 | マネーフォレスト流の判定 |
|---|---|
| 1か月未満 | 小さな収入減でも借入れが必要になる可能性がある |
| 1~2か月 | 家計の根が浅い状態 |
| 3~5か月 | 収入が安定した世帯なら最低限の防衛力がある |
| 6~11か月 | 多くの家計で一定の安心感を得やすい |
| 12か月以上 | 高い防衛力。ただし現金を持ちすぎていないか確認する |
12か月以上あれば必ず安心という意味ではありません。
自営業者や片働き世帯では十分な場合がありますが、安定した共働き世帯では、長期資金まで普通預金に置いている可能性もあります。
マネーフォレスト流「4層キャッシュ構造」
普通預金に必要な金額を一つの数字で考えると、日常のお金と将来のお金が混ざってしまいます。
そこで、マネーフォレストでは現金を四つの層に分けて考えます。
| 現金の層 | 役割 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| 第1層:決済資金 | 日々の支払い | 通常生活費の1~1.5か月分 |
| 第2層:防衛資金 | 失業、病気、収入減 | 緊急時の赤字額×必要月数 |
| 第3層:予定資金 | 数年以内の大きな支出 | 使用目的ごとに必要額を確保 |
| 第4層:非常資金 | 災害、口座障害 | 少額の現金と予備口座 |
第1層:決済資金
給与の受取口座やクレジットカードの引落口座に置く、日常生活用のお金です。
目安は、通常生活費の1~1.5か月分です。月の支出が25万円なら、25万~37万5,000円程度を決済口座に置きます。
残高を増やしすぎると、日常的に使ってよい金額と、緊急時に守るべき金額の区別がつきにくくなります。
第2層:生活防衛資金
病気、失業、休業、売上減少などによって、収入が減ったときのためのお金です。普通預金など、必要なときにすぐ使える場所に置きます。
会社員には雇用保険の基本手当がありますが、一般的な離職者の所定給付日数は、加入期間などによって90~150日です。受給要件や給付開始時期もあるため、「失業給付があるから現金は不要」とは考えないほうがよいでしょう。
また、一定の条件を満たす会社員が病気やけがで働けない場合、傷病手当金が支給されることがあります。協会けんぽでは、1日当たりの支給額は原則として標準報酬月額を基に計算した金額の3分の2で、支給期間は通算1年6か月です。(出典:協会けんぽ 傷病手当金)
公的保障があっても、通常の給与がすべて補われるとは限りません。最低生活費と受取見込額の差額を、現金で補えるようにします。
第3層:予定資金
緊急事態ではなく、近い将来に使うことが分かっているお金です。
たとえば、次のような支出があります。
- 自動車の購入や車検
- 子どもの進学費用
- 引っ越し
- 住宅の頭金
- 家電の買い替え
- 結婚式
- 住宅の修繕
マネーフォレストでは、おおむね5年以内に使う予定のお金は、生活防衛資金とは別に管理することを基本とします。
使用時期が近いお金を値動きの大きい投資へ回すと、必要なときに価格が下落している可能性があるからです。
第4層:非常資金
普通預金があっても、災害、停電、通信障害、銀行システムの障害などによって、一時的に使えないことがあります。
そのため、次の二つを用意します。
- 自宅に保管する少額の現金
- メイン口座とは別の金融機関にある予備口座
政府や消防庁の防災情報でも、現金は非常持出品の一つとして挙げられています。盗難リスクがあるため大金を置くのではなく、家庭の人数や生活環境に合わせて、小額紙幣や硬貨を含む必要最小限の金額を検討しましょう。
世帯別に必要額を計算してみる
ここからは、架空の世帯を使って必要額を計算します。
実際の必要額は、支出、雇用、公的保障、家族構成によって異なります。
ケース1:一人暮らしの会社員
家計の状況
- 手取り月収:30万円
- 通常生活費:26万円
- 最低生活費:19万円
- 2年以内の予定支出:30万円
- 緊急修理などの予備費:15万円
- 目標とする防衛期間:6か月
必要額
| 現金の層 | 必要額 |
|---|---|
| 決済資金 | 26万円 |
| 生活防衛資金 | 19万円×6か月=114万円 |
| 予定資金 | 30万円 |
| 緊急予備費 | 15万円 |
| 合計 | 185万円 |
この人の場合、普通預金などに約185万円あれば、日常生活と6か月分の生活防衛資金、予定している支出をカバーできます。
預金残高が100万円あっても、「100万円もある」とは考えません。予定資金などを除けば、生活防衛に使える金額は大きく減るからです。
ケース2:子どもがいる共働き家庭
家計の状況
- 通常生活費:42万円
- 最低生活費:32万円
- 夫が働けなくなった場合の妻の手取り:22万円
- 緊急時の月間赤字:10万円
- 目標とする防衛期間:6か月
- 近い将来の教育・自動車費:50万円
- 住宅や家電の予備費:30万円
必要額
| 現金の層 | 必要額 |
|---|---|
| 決済資金 | 42万円 |
| 生活防衛資金 | 10万円×6か月=60万円 |
| 予定資金 | 50万円 |
| 緊急予備費 | 30万円 |
| 合計 | 182万円 |
この家庭では、片方の収入が残るため、最低生活費32万円をそのまま6倍する必要はありません。
必要なのは、最低生活費から残る収入を引いた「月間赤字」の6か月分です。
ただし、夫婦が同じ会社や同じ業界で働いている場合、景気悪化によって二人の収入が同時に減る可能性があります。
その場合は、次のような別のストレステストも行います。
最低生活費32万円×3か月
+決済資金42万円
+予定資金50万円
+予備費30万円
=218万円
一つの状況だけでなく、「片方の収入が止まる場合」と「世帯収入全体が止まる場合」の両方を計算することが大切です。
ケース3:フリーランス世帯
家計の状況
- 通常の家計支出:30万円
- 最低生活費:25万円
- 事業の固定費:10万円
- 売上減少時にも残る収入:8万円
- 緊急時の月間赤字:27万円
- 目標とする防衛期間:12か月
- 納税資金:80万円
- 仕事道具の買い替え費:30万円
- 決済資金・予備費:70万円
必要額
27万円×12か月
+納税資金80万円
+買い替え費30万円
+決済・予備費70万円
=504万円
会社員と比べて必要額が大きいのは、家計だけでなく、事業を維持する固定費も必要だからです。
また、口座に納税資金があっても、それを生活防衛資金として数えてはいけません。
フリーランスは、
- 家計用の普通預金
- 事業用の普通預金
- 納税用の普通預金
を分けると、自由に使える金額を把握しやすくなります。
普通預金が1,000万円を超えたら確認したいこと
金融機関が破綻した場合、利息のつく普通預金や定期預金などは、一つの金融機関ごとに、預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息等が原則として保護されます。
利息のつかない決済用預金など、所定の条件を満たす預金は全額保護の対象です。
現金・預金が1,000万円を超える場合は、
- 複数の金融機関に分ける
- 預金保険の対象商品か確認する
- 決済用預金を検討する
- 近い将来に使わない部分を確認する
といった対策を検討します。
なお、同じ銀行に普通預金と定期預金を持っている場合、口座ごとに1,000万円ではありません。預金者ごとに対象となる預金を合算して判定されます。
現金が少なすぎる5つのサイン
次の状態に当てはまる場合は、投資額を増やす前に普通預金を積み増したほうがよいかもしれません。
1.クレジットカードの請求で預金がほぼなくなる
給料日前に口座残高がほぼゼロになる状態では、小さな出費にも対応できません。
2.家電の故障を分割払いに頼る
冷蔵庫、給湯器、自動車などの故障で、新たな借入れが必要になる状態です。
3.相場下落時にも投資資産を売る必要がある
生活費のために投資信託や株式を売却する可能性があるなら、現金が不足しています。
4.ボーナスがないと年間収支が赤字になる
毎月の家計がボーナス頼みの場合、勤務先の業績悪化がそのまま家計危機につながります。
5.税金や教育費も預金残高に含めて安心している
使用目的が決まっているお金は、生活防衛資金ではありません。
現金を持ちすぎている5つのサイン
反対に、現金が多すぎる可能性もあります。
1.現金持久月数が必要以上に長い
収入が安定した共働き家庭で、5年以内の予定支出を除いても、最低生活費の3年分以上を普通預金に置いている場合などです。
2.10年以上使う予定がない
老後まで使わない資金まで、すべて普通預金に置いている状態です。
3.生活防衛資金の目標を決めていない
「多ければ多いほど安心」と考えていると、現金を増やすこと自体が目的になってしまいます。
4.インフレを考慮していない
預金残高が減らなくても、物価上昇によって買える商品やサービスは減る可能性があります。
5.不安の原因が金額ではない
十分な預金があるのに不安が消えない場合、必要なのは追加の貯金ではなく、家計や将来計画の見える化かもしれません。
マネーフォレストでは、必要な四つの現金層を確保した後に残るお金を、長期資金候補と考えます。
すぐにすべてを投資する必要はありませんが、10年以上使わない資金については、長期・分散・積立による資産形成を検討できます。
現金は「利益を生まないお金」ではない
現金は、投資のように大きな利益を生むものではありません。そのため、現金を多く持つことを「機会損失」と考える人もいます。
しかし、現金には数字に表れにくい利益があります。
- 失業中に焦って次の仕事を決めずに済む
- 病気のときに治療を優先できる
- 投資資産を値下がり時に売らずに済む
- 急な引っ越しや家族の支援に対応できる
- 高金利のカードローンを使わずに済む
つまり、現金は「増やすための資産」ではなく、人生の生活や選択肢を守る資産と考えます。
現金を持つ目的は、預金残高を眺めて安心することではありません。不測の事態が起きても、望まない選択を急いでしなくてよい時間を買うことです。
今日からできる現金額の確認手順
まずは、次の順番で計算してみましょう。
手順1:通常生活費を確認する
直近3~6か月の銀行口座やクレジットカードの明細を確認します。
手順2:最低生活費をつくる
旅行、娯楽、積立投資など、一時停止できる支出を除きます。
手順3:緊急時にも残る収入を確認する
配偶者の収入、公的給付、年金などを確認します。
手順4:月間赤字を計算する
最低生活費-緊急時にも残る収入
手順5:必要な防衛期間を決める
雇用形態、家族構成、再就職のしやすさなどから3~18か月の範囲で検討します。
手順6:予定支出を追加する
5年以内に使う住宅、教育、自動車などのお金を加えます。
手順7:預金残高と比較する
不足している場合は、積立投資の増額より先に、生活防衛資金を積み立てます。
まとめ|安心できる現金額は「金額」ではなく「時間」で考える
普通預金に必要な金額は、年収や平均貯金額だけでは決まりません。
確認するべきなのは、
- 最低生活費はいくらか
- 収入が減ったとき、毎月いくら不足するか
- 収入を回復するまで何か月かかりそうか
- 近い将来にいくら使う予定か
- 家族、仕事、住宅にどのようなリスクがあるか
です。安心できる現金額を次の四つに分けて考えましょう。
- 日々の支払いを行う決済資金
- 収入減少に備える生活防衛資金
- 数年以内に使う予定資金
- 災害や口座障害に備える非常資金
預金残高の多さではなく、収入が止まったときに何か月生活できるかを計算してみましょう。
現金は、ただ眠っているお金ではありません。
生活を守り、投資を続け、慌てずに次の選択をするための水です。森に水が多すぎれば木を育てる場所がなくなり、水が少なすぎれば根が枯れてしまいます。
自分の暮らしに必要な水の量を知り、それを超える資金を長期的に育てていく。
それがマネーフォレストの考える、現金と投資のバランスです。
※本記事で示した月数や金額は、マネーフォレストが家計を整理するために設定した編集上の目安です。必要額は雇用形態、家族構成、健康状態、公的保障、資産状況によって異なります。預金制度や公的給付の条件は変更されることがあるため、利用時には最新情報をご確認ください。